三年前.....

「司、話があります。」
「急に呼び出してなんだよ、俺は忙しいんだ、今から日本に」
「つべこべ言わずに、そこにお座りなさい。」
「チッ!」

ドカッとソファ―に座った俺の前には初めて見る顔があった。

「司君か?いやぁ、立派な青年になって、確か美咲とは一歳違いでしたな、いやいや頼もしい。」
「ジジィ、誰だ?」
「司、藤堂会長に失礼ですよ。」
「藤堂会長?」
藤堂商事のドンか、道明寺の足元にも及ばないが、最近急成長を続ける会社だ。
そのおやじがどうして?

「実は藤堂会長のお嬢様とあなたとの縁談の話があります。」
「ちょっと待て!!」
「美咲にはパーティーで何度か顔を合わせているだろう?あの子は司君を一目見て好きになってしまったらしく、夜も眠れないほど君に想い寄せているんだよ。」
「そんなの知ったことか、俺にはれっきとした....」
「ガールフレンドがいるとか、まあ若いうちは色々な女性と付き合うのもいいだろう、だが近い将来会社をしょって立つ君には条件の整った相手が必要だと思うがね。」
「俺は牧野以外考えられねぇ。」
「まきの..ガールフレンドの名前かな?さて、どこぞの令嬢か、聞いたことのない名前だが...」
「てめぇ、ぶっ飛ばすぞ!」
完全に頭に血が上った俺は、テーブルを蹴り倒す勢いで立ち上がった。
「司!」
「ババァ!こんなふざけた話をするために俺を呼んだのか!!」
「ふざけた話じゃないわ、これは提案よ、あなたにも悪い話じゃないはず、もちろん牧野さんにもね。」
「提案?笑わせるな、さっきから一方的に.」
「とにかく!座って話を聞きなさい。」
「話だと、俺と牧野を別れさせ、この狸ジジィの娘と政略結婚させようって話か?」
「私はまだ何も話していないわ。」
「結局、俺と牧野を別れさせるつもりだろう、そっちがその気なら今すぐあいつと籍を入れる!」
「司!」

「相手の話を聞く前に提案を断るとは、道明寺の後継者としてはどうかと思うがね。」
「なに?!」
この狸ジジィが....
一発殴ってやろうと拳を握り締めたその時、珍しくババァの溜息を耳にした。

「これで三年...もつかどうか...」
「三年?いったい何の話だ?」
「これだけは言っておくわ、あなたにとっても悪い話じゃない、知りたいのなら、まず落ち着くことね。」
悪い話じゃない?
牧野と別れさせて、俺に政略結婚させようって魂胆じゃねぇのか?

「言い方を変えましょう、司、これは賭けよ。」
「はぁ?今度は賭けだと?」
「この賭けにあなたが勝てば、あなた達の交際に反対はしないわ、好きになさい。」
「なに?」
「牧野さんとの将来を考えているなら、話を聞いた方が得じゃなくて?」
俺達の将来?
それは結婚にも反対しないってことか?
どういう風の吹き回しだ?
「どう、話を聞く気になったかしら?」
「...........ああ、話だけなら聞いてやる、くだらない話だったら速攻日本に飛んで牧野と籍入れるからな。」
「結構よ。」




背景1




「牧野と三年間、連絡を絶てだと?!」
「ええ、今この瞬間から、牧野さんとの接触を禁じます。」
「おい!話が違うじゃねぇか?!結局、俺達を別れさせる魂胆だろう?!」
「誰も別れろとは言っていないわ、連絡を絶てと言っているの、会うことはもちろん、電話やメールも駄目よ。」
「はあ?!それでどうやって付き合っていけって言うんだ?!」
「たかが三年よ、あなた達の気持ちが本物なら、それくらいの時間で気持ちが揺らいだりしないはずじゃなくて?」

ババァは昔から計算高い。

何の得にもならない話に時間を割いたりしねぇ。
やっぱり俺と牧野を別れさせる気なんだ。

「断る!!」
冗談じゃねぇ、ババァの想い通りになってたまるか!!
「その代わり、三年後はあなたの好きになさい、もし牧野さんと結婚したいと言うなら、私が全面的にバックアップしましょう。」
「?!」
「あなただって分かっているでしょう?道明寺の跡取りの結婚がどれほど重要視されているか、叔父や叔母、道明寺家親族、会社の重役、株主、そうそうたる面々の干渉は避けられない、あなたはいいでしょう、でも反対を押し切った形で結婚しても苦労するのは牧野さんなのよ。」

牧野との結婚...
そうだ、俺が結婚するなら牧野しかいねぇ。
誰が反対しようと、俺はあいつと結婚する!
「反対されていると知りながら彼女があなたのプロポーズを受けるかしら?もし結婚したとしても慣れない環境で苦労するでしょう、それに加えて親族からの冷遇、あなたは彼女にそんな苦労をさせるつもり?」
「....」
「この提案を受け入れるなら、私があなた達を助けましょう、親族や重役、株主や加えてマスコミから彼女を守ってあげるわ。」
「俺では牧野を守り切れねぇって言いたいのか?」
「ええ、正直”今のあなた”ではね。」

くそっ!


悔しいが反論出来ねぇ。
『牧野を守る』口では散々ほざいてきたが、実際守る方法なんて考えちゃいねぇ。
牧野を悪く言う奴は潰す、あいつを傷つけようとする奴は抹殺する、手を出したらぶっ殺す!
あいつは嫌がるだろうが当然SPも付ける、もしくは俺の傍に置いて四六時中目を光らせておくが...あいつが大人しく傍にいるか?
それに先陣を切って反対すると思ったババァが俺達の味方になる?

「どう、悪い条件ではないでしょう?」
「本当に俺と牧野の結婚に反対しねぇのか?」
「ええ、約束するわ。」

三年.....
俺の気持ちは変わらねぇ、自信はある。
牧野もきっと......いや自身はねぇ。
あいつの傍には類がいる。
それに牧野自身に自覚はないが、あいつには男を引き寄せるオーラがある。
特に俺のような負の因子を持った男には太陽の様に眩しく映る女だ。
あいつにその気がなくても、言い寄ってくる男はいるだろう。
だが三年耐えれば何の障害もなく牧野と結婚できる。


どうする....
俺の人生を懸けたて、この賭けに挑むか...


「司、どう?」


牧野.....