「おい、司、牧野がお前のSPってどういうことだ?!」
「そうだ、俺達は何も聞いてないぞ。」
あきらと総二郎が司に詰め寄るが、話を振られた本人はだんまりを決め込んでいる。
その沈黙を貫く男の代わりに口を開いたのは、同じく噂話に関心のない男だった。
「牧野が警護官の訓練を受けてるって、皆も知ってたでしょう?」
「類、確かにそれは聞いてたが、司の所のSPになるって話は初耳だぞ、それに道明寺には専属の護衛官がいるだろう?」
「さあ、それは司に聞いてよ。」
それだけ答えると、お腹が空いたとばかりに類はテーブルに並んだ料理を摘まみ始める。
「どうなんだ司?まさか、お前ワザと牧野を自分のSPにしたのか?」
司はグラスに残っていたウイスキーを一気に飲み干した。
「知らねぇ.....」
「知らないって...じゃあ牧野が故意にお前に近付いたってことか?いや、それはあり得ねぇだろう、あいつはそんな未練がましい女じゃねぇぞ。」
「そうだな、三年前に別れてから牧野からお前の名前を聞いたことはないし、それに結構あいつはモテてる、当の本人はまるで自覚無しだがな。」
パキッ....
「去年だったか?あいつのバイト先に顔を出したら、ちょうど告白タイムに出くわして。」
「そうそう、あれは傑作だったぞ、コンビニのレジの前に男が三人か?並んで”俺と付き付き合って下さい”って言って手を差し出して、テレビでそんな番組なかったか?」
「ああ、俺が調子にのって”ちょっと待った!”って言ったら、牧野の奴に睨まれて、それから当分口きいてもらえなかったけどな、おい司?」
ガシャ―――ン!!
割れたグラスから流れ出た琥珀色の液体。
まるで水晶の欠片のようにテーブルに散らばったガラス。
「司?!」
「.......本当か?」
「司、急にどうしたんだ?おい、手から血が出てるぞ!」
あきらは息を呑んだ。
「本当かって聞いてるんだ?!」
「おまえ、なに怒ってんだ?」
「怒ってねぇよ!!」
「怒鳴るな、他の客に迷惑だろう。」
ウェイターが慌てて飛んでくる。
「とにかく落ち着け、司。」
総二郎が肩に触れようとしたが、司はそれを振り払うように立ち上がる。
「もういい、俺は帰る!!」
そう言い捨てると、司は苛立ちを露わにしたままポカンと口を開けている親友達を無視してバーを出て行ってしまった。
「なんなんだよ..あいつは?」
「俺、なんか不味いことを言ったか?」
司が突然怒り出した理由が分からず、呆然とするあきらと総二郎の隣でクスクスと笑っている類。
「司はもともと我慢なんてできる性格じゃないんだから、アメリカならまだしも日本で、ましてや牧野の傍で大人しくしていられるか見ものだね。」
「類、お前何か知ってるのか?」
「さあ...眠いから、僕もそろそろ帰るよ。」
意味深な言葉を残して、類も優雅に手を振りながらバーを出て行く。
残された二人は互いの顔を見合わせた。
「まさか、司の奴...牧野のことをまだ...」
あいつがモテるのは昔からだ。
本人は気付いてないだけで、アプローチしてきた奴は山ほどいる。
だがら渡米してからも無理に時間を作って、あいつに会いに日本に飛んだ。
そうやって大半は俺が威嚇して排除してきたが、三年前、あいつの傍を離れてからは気が気じゃなかった。
SPを付けたかったが、それは出来ねぇ。
なぜなら..
『今日から......牧野つくしには一切関わらないこと、それが条件です。』
ババァに無理やり約束させられた。
離れている間に、あいつが俺に愛想を尽かしたら...
俺の知らない間に、あいつに言い寄ってくる男がいたら....
寂しさで、あいつの心が他の男に傾いたら....
あらぬ妄想が頭の中を占領して、何日も眠れない日が続いた。
心配で気が狂いそうだった。
俺にはあいつの様子を聞くことも、あいつの姿を見ることも出来ねぇ....
「司様、どちらへ?」
部屋にはまだ美咲がいる気がして戻る気にはなれず、エレベーターの前で立ち尽くす。
斎藤が怪訝な表情で見つめていた。
「今日は邸に戻る。」
「承知しました。」
車に乗った途端、鳴り出す携帯。
あいつらの話を聞いた後だからか、嫌な予感しかしねぇ...
『それから牧野様は......司様、聞いておられますか?』
真っ暗な闇の中、牧野の背中が見えた。
暗闇の中でもあいつの姿は鮮明に俺の瞳に映る。
あいつを捕まえようと手を伸ばすが俺の手は空を切り、追いかけようとするが足は鉛のように重い。
牧野!!牧野!!
俺の叫び声にも振り向くことはなく、牧野は暗闇の中に消えていく。
駄目だ、行くな!!
必死で足を動かそうともがく。
その時気付いた、俺の足を縛る足枷を。
『あなたが約束を守れないなら、私は全力で彼女を排除します。』
ババァ?!
止めろ、牧野を傷付けるな!!
あいつに手を出すな!!
やめてくれ!!
やめろ―――!!
ガバッ.....!!
「はあ、はあ、はぁ........」
朝日が差し込む部屋。
まるで滝に打たれたように、俺の全身は汗で濡れていた。
「そうだ、俺達は何も聞いてないぞ。」
あきらと総二郎が司に詰め寄るが、話を振られた本人はだんまりを決め込んでいる。
その沈黙を貫く男の代わりに口を開いたのは、同じく噂話に関心のない男だった。
「牧野が警護官の訓練を受けてるって、皆も知ってたでしょう?」
「類、確かにそれは聞いてたが、司の所のSPになるって話は初耳だぞ、それに道明寺には専属の護衛官がいるだろう?」
「さあ、それは司に聞いてよ。」
それだけ答えると、お腹が空いたとばかりに類はテーブルに並んだ料理を摘まみ始める。
「どうなんだ司?まさか、お前ワザと牧野を自分のSPにしたのか?」
司はグラスに残っていたウイスキーを一気に飲み干した。
「知らねぇ.....」
「知らないって...じゃあ牧野が故意にお前に近付いたってことか?いや、それはあり得ねぇだろう、あいつはそんな未練がましい女じゃねぇぞ。」
「そうだな、三年前に別れてから牧野からお前の名前を聞いたことはないし、それに結構あいつはモテてる、当の本人はまるで自覚無しだがな。」
パキッ....
「去年だったか?あいつのバイト先に顔を出したら、ちょうど告白タイムに出くわして。」
「そうそう、あれは傑作だったぞ、コンビニのレジの前に男が三人か?並んで”俺と付き付き合って下さい”って言って手を差し出して、テレビでそんな番組なかったか?」
「ああ、俺が調子にのって”ちょっと待った!”って言ったら、牧野の奴に睨まれて、それから当分口きいてもらえなかったけどな、おい司?」
ガシャ―――ン!!
割れたグラスから流れ出た琥珀色の液体。
まるで水晶の欠片のようにテーブルに散らばったガラス。
「司?!」
「.......本当か?」
「司、急にどうしたんだ?おい、手から血が出てるぞ!」
あきらは息を呑んだ。
「本当かって聞いてるんだ?!」
「おまえ、なに怒ってんだ?」
「怒ってねぇよ!!」
「怒鳴るな、他の客に迷惑だろう。」
ウェイターが慌てて飛んでくる。
「とにかく落ち着け、司。」
総二郎が肩に触れようとしたが、司はそれを振り払うように立ち上がる。
「もういい、俺は帰る!!」
そう言い捨てると、司は苛立ちを露わにしたままポカンと口を開けている親友達を無視してバーを出て行ってしまった。
「なんなんだよ..あいつは?」
「俺、なんか不味いことを言ったか?」
司が突然怒り出した理由が分からず、呆然とするあきらと総二郎の隣でクスクスと笑っている類。
「司はもともと我慢なんてできる性格じゃないんだから、アメリカならまだしも日本で、ましてや牧野の傍で大人しくしていられるか見ものだね。」
「類、お前何か知ってるのか?」
「さあ...眠いから、僕もそろそろ帰るよ。」
意味深な言葉を残して、類も優雅に手を振りながらバーを出て行く。
残された二人は互いの顔を見合わせた。
「まさか、司の奴...牧野のことをまだ...」
あいつがモテるのは昔からだ。
本人は気付いてないだけで、アプローチしてきた奴は山ほどいる。
だがら渡米してからも無理に時間を作って、あいつに会いに日本に飛んだ。
そうやって大半は俺が威嚇して排除してきたが、三年前、あいつの傍を離れてからは気が気じゃなかった。
SPを付けたかったが、それは出来ねぇ。
なぜなら..
『今日から......牧野つくしには一切関わらないこと、それが条件です。』
ババァに無理やり約束させられた。
離れている間に、あいつが俺に愛想を尽かしたら...
俺の知らない間に、あいつに言い寄ってくる男がいたら....
寂しさで、あいつの心が他の男に傾いたら....
あらぬ妄想が頭の中を占領して、何日も眠れない日が続いた。
心配で気が狂いそうだった。
俺にはあいつの様子を聞くことも、あいつの姿を見ることも出来ねぇ....
「司様、どちらへ?」
部屋にはまだ美咲がいる気がして戻る気にはなれず、エレベーターの前で立ち尽くす。
斎藤が怪訝な表情で見つめていた。
「今日は邸に戻る。」
「承知しました。」
車に乗った途端、鳴り出す携帯。
あいつらの話を聞いた後だからか、嫌な予感しかしねぇ...
『それから牧野様は......司様、聞いておられますか?』
真っ暗な闇の中、牧野の背中が見えた。
暗闇の中でもあいつの姿は鮮明に俺の瞳に映る。
あいつを捕まえようと手を伸ばすが俺の手は空を切り、追いかけようとするが足は鉛のように重い。
牧野!!牧野!!
俺の叫び声にも振り向くことはなく、牧野は暗闇の中に消えていく。
駄目だ、行くな!!
必死で足を動かそうともがく。
その時気付いた、俺の足を縛る足枷を。
『あなたが約束を守れないなら、私は全力で彼女を排除します。』
ババァ?!
止めろ、牧野を傷付けるな!!
あいつに手を出すな!!
やめてくれ!!
やめろ―――!!
ガバッ.....!!
「はあ、はあ、はぁ........」
朝日が差し込む部屋。
まるで滝に打たれたように、俺の全身は汗で濡れていた。