「牧野、こっち。」
「あ、花沢類!」
ホテルのロビーに立つ美貌の王子様。
ただ立っているだけなのに目立つってもんじゃない、類の周りにはアイドル並みの人だかりが出来ていた。
うう...視線が痛い。
「大丈夫なの?」
「うん、今休憩になったから、花沢類はどうして此処に?もしかして道明寺に会いに来たの?」
「まさか、取引先との会食、牧野を見かけたから、本当にSPになったんだね、驚いたよ。」
「へへへ、無事訓練を終えました。」
「で、司のSPになったの?」
「希望したわけじゃないから....たまたまね。」
「そっか....牧野がSPになったら僕の護衛頼もうと思ってたのに残念だよ。」
「何言ってるの、花沢にも専属警護官がいるでしょう?」
「まあね、でも僕は牧野がいいから、ところでさぁ...」
「なに?」
「よかったじゃん、司、はっきり言ってたね。」
「何を?」
「だから、政略結婚なんて絶対にしない、結婚は愛する女性とします.....て。」
また少しだけ胸から血が流れた。
「だね、よかったよ.....あいつが幸せそうで。」
「牧野?」
「あ、そろそろ休憩終わるから、あたし戻るね。」
「うん、近いうちに就職祝いの御飯に行こう、連絡するから。」
「分かった、じゃあね。」
そう言って、駆け出した牧野。
その背中がやけに小さく見えて、一瞬引き留めそうになったけど....
「司が傍にいるなら大丈夫だよね、牧野。」
「はぁはぁ、すみません、荒木先輩。」
「あら、そんなに慌てて戻って来なくても大丈夫よ、それで知り合いには会えたの?」
「はい、会えました。」
「高校の先輩?」
「一つ上の先輩です。」
「高校の先輩と今でも繋がってるって素敵だわ、そんな友達は大切にしなくちゃね。」
「はい。」
そう、道明寺と別れた後も花沢類や西門さん、美作さんは何かと気に掛けてくれている。
大切な友達だ。道明寺とも......今は無理でも、いつか友達に戻れたらいいな..
この胸の傷が完治したら....だけどね。
「今日の予定は以上です。」
「ああ....帰国初日から遠慮がねぇな、お前は。」
司はソファーに身体を預け、大きく息を吐く。
「恐れ入ります。」
「チッ..嫌味も通じねぇのかよ。」
会見の後、立て続けに雑誌の取材を5件こなし、気が付けば陽はどっぷり暮れていた。
「取材中に美作様から電話がございました、今夜メープルのバーで帰国祝いをしたいとのことです。」
「ああ、かったりぃが、あいつらに会うのも久しぶりだからな...」
「あいつら...て、もしかしてF3の皆様?」
美咲がいそいそと近付き、俺と西田の前にコーヒーを置くと興味津々で聞いてくる。
「確か美作商事の美作あきら様と茶の湯の総本家・西門流の西門総二郎様、あと花沢物産の花沢類様だったかしら?」
「よく調べてるじゃねぇか....」
「そりゃあ、司の御親友と言われる方たちですもの。」
「親友ねぇ...」
悪友の間違いだろう?
牧野のことがあってから、あいつらの態度はえらく冷てぇ。
まあ、あいつらにとっても牧野は親友だ。
牧野が辛い思いをしている原因が俺にあるとすれば、あいつらが黙ってるはずねぇからな、責められるのは覚悟していた。
「まったく、こっちの事情も知らねぇで..」
「司?」
「何でもねぇよ。」
「じゃあ、私も仕度してくるわね。」
そう言って、席を立とうとした美咲。
「仕度って何だ?」
「え、だってバーに行くんでしょう?」
「お前は来なくていい、いや来るんじゃねぇ。」
「え、だって私は司の婚約者なんだし、きちんとお友達にも紹介して欲しいわ。」
「必要ねぇな。」
「どうして?だって私は..」
「おい!」
「え?」
「俺が必要ねぇって言ってんだから必要ねぇんだよ、同じことを何回も言わせんな、それに外であんまり俺の婚約者だって触れ回ると、あとで自分が恥をかくことになるぞ。」
「それって....どういう意味?」
美咲の顔が青ざめた。
「そのまんまだ、アメリカ暮らしが長くて日本語忘れたか?」
「私は司の婚約者よね?記者会見でだって言ってたじゃない、愛してるから結婚するんだって..」
「おまえ、日本語の変換変だぞ、やっぱアメリカに帰った方がいいんじゃねぇか?」
「司!!」
「時間だ、そろそろ行くわ。」
「待って!」
止める美咲の腕を振り払い立ち上がった司は、真っすぐドアに向かって歩き出す。
そしてドアノブに手を掛けたと同時に振り返り。
「ああ、それから西田。」
「はい。」
「俺が戻るまでに部屋を片付けておけよ。」
吐き捨てるように言って、そのまま部屋を出て行った。
”片付ける”の意味を理解した美咲。
なぜ?
どうして?
司は優しい人ではない、我儘で自分本位の人だ。
他人の気持ちなんて考えたこともないだろう。
それは十分理解しているし、それが彼のカリスマ性を引き立て、魅力でもあると思ってる。
だから、たとえ優しい言葉を掛けてもらえなくても、私は彼が好き。
ずっと傍にいれば、いつかきっと私の想いに応えてくれる、ずっとそう信じていた。
でも.....
「西田さん、教えていただけない?」
「はい、何をでしょう?」
「ある女性のことを....」
廊下に出てSPの姿を確認する。
あいつがいない....
「支社長、西田秘書より窺っております、バーに向かわれるのですね?」
責任者の斎藤が近付いてきた。
「ああ、ところで女のSPはどうした?」
「女性SPは夜勤業務がありませんので、本日は帰宅しました、何か御用でしたか?」
「いや....」
「では。」
斎藤の先導でバーに向かうが、途中、見覚えのある後姿が視界に入った。
「田中先輩、今夜付き合ってもらえませんか?」
「おお、お前から誘ってくるとは珍しいな。」
「ちょっと、スッキリしたいなぁと思って。」
「スッキリか.....じゃあ手加減しねぇからな。」
「怖いなぁ...やっぱやめておこうかな...」
「何だとぉ?!俺をその気にさせといてやめるだとぉ?!」
「ぎゃあぁぁ、ちょっと先輩、苦しいってば...」
「よし、今夜はオールナイトだ。」
「それは謹んでお断りします。」
「人の好意を無下に断るな。」
「いえいえ、先輩の化け物並みの体力には付き合いきれませんから。」
「おい!化け物とは何だ?!」
「きゃははは、だから苦しいってば..」
スッキリしたい?
付き合う?
オールナイト?
「支社長、どうかなさいましたか?」
立ち止まったまま動かない司。
その拳はわなわなと震えていた。
「斎藤、頼みがある。」
「あ、花沢類!」
ホテルのロビーに立つ美貌の王子様。
ただ立っているだけなのに目立つってもんじゃない、類の周りにはアイドル並みの人だかりが出来ていた。
うう...視線が痛い。
「大丈夫なの?」
「うん、今休憩になったから、花沢類はどうして此処に?もしかして道明寺に会いに来たの?」
「まさか、取引先との会食、牧野を見かけたから、本当にSPになったんだね、驚いたよ。」
「へへへ、無事訓練を終えました。」
「で、司のSPになったの?」
「希望したわけじゃないから....たまたまね。」
「そっか....牧野がSPになったら僕の護衛頼もうと思ってたのに残念だよ。」
「何言ってるの、花沢にも専属警護官がいるでしょう?」
「まあね、でも僕は牧野がいいから、ところでさぁ...」
「なに?」
「よかったじゃん、司、はっきり言ってたね。」
「何を?」
「だから、政略結婚なんて絶対にしない、結婚は愛する女性とします.....て。」
また少しだけ胸から血が流れた。
「だね、よかったよ.....あいつが幸せそうで。」
「牧野?」
「あ、そろそろ休憩終わるから、あたし戻るね。」
「うん、近いうちに就職祝いの御飯に行こう、連絡するから。」
「分かった、じゃあね。」
そう言って、駆け出した牧野。
その背中がやけに小さく見えて、一瞬引き留めそうになったけど....
「司が傍にいるなら大丈夫だよね、牧野。」
「はぁはぁ、すみません、荒木先輩。」
「あら、そんなに慌てて戻って来なくても大丈夫よ、それで知り合いには会えたの?」
「はい、会えました。」
「高校の先輩?」
「一つ上の先輩です。」
「高校の先輩と今でも繋がってるって素敵だわ、そんな友達は大切にしなくちゃね。」
「はい。」
そう、道明寺と別れた後も花沢類や西門さん、美作さんは何かと気に掛けてくれている。
大切な友達だ。道明寺とも......今は無理でも、いつか友達に戻れたらいいな..
この胸の傷が完治したら....だけどね。
「今日の予定は以上です。」
「ああ....帰国初日から遠慮がねぇな、お前は。」
司はソファーに身体を預け、大きく息を吐く。
「恐れ入ります。」
「チッ..嫌味も通じねぇのかよ。」
会見の後、立て続けに雑誌の取材を5件こなし、気が付けば陽はどっぷり暮れていた。
「取材中に美作様から電話がございました、今夜メープルのバーで帰国祝いをしたいとのことです。」
「ああ、かったりぃが、あいつらに会うのも久しぶりだからな...」
「あいつら...て、もしかしてF3の皆様?」
美咲がいそいそと近付き、俺と西田の前にコーヒーを置くと興味津々で聞いてくる。
「確か美作商事の美作あきら様と茶の湯の総本家・西門流の西門総二郎様、あと花沢物産の花沢類様だったかしら?」
「よく調べてるじゃねぇか....」
「そりゃあ、司の御親友と言われる方たちですもの。」
「親友ねぇ...」
悪友の間違いだろう?
牧野のことがあってから、あいつらの態度はえらく冷てぇ。
まあ、あいつらにとっても牧野は親友だ。
牧野が辛い思いをしている原因が俺にあるとすれば、あいつらが黙ってるはずねぇからな、責められるのは覚悟していた。
「まったく、こっちの事情も知らねぇで..」
「司?」
「何でもねぇよ。」
「じゃあ、私も仕度してくるわね。」
そう言って、席を立とうとした美咲。
「仕度って何だ?」
「え、だってバーに行くんでしょう?」
「お前は来なくていい、いや来るんじゃねぇ。」
「え、だって私は司の婚約者なんだし、きちんとお友達にも紹介して欲しいわ。」
「必要ねぇな。」
「どうして?だって私は..」
「おい!」
「え?」
「俺が必要ねぇって言ってんだから必要ねぇんだよ、同じことを何回も言わせんな、それに外であんまり俺の婚約者だって触れ回ると、あとで自分が恥をかくことになるぞ。」
「それって....どういう意味?」
美咲の顔が青ざめた。
「そのまんまだ、アメリカ暮らしが長くて日本語忘れたか?」
「私は司の婚約者よね?記者会見でだって言ってたじゃない、愛してるから結婚するんだって..」
「おまえ、日本語の変換変だぞ、やっぱアメリカに帰った方がいいんじゃねぇか?」
「司!!」
「時間だ、そろそろ行くわ。」
「待って!」
止める美咲の腕を振り払い立ち上がった司は、真っすぐドアに向かって歩き出す。
そしてドアノブに手を掛けたと同時に振り返り。
「ああ、それから西田。」
「はい。」
「俺が戻るまでに部屋を片付けておけよ。」
吐き捨てるように言って、そのまま部屋を出て行った。
”片付ける”の意味を理解した美咲。
なぜ?
どうして?
司は優しい人ではない、我儘で自分本位の人だ。
他人の気持ちなんて考えたこともないだろう。
それは十分理解しているし、それが彼のカリスマ性を引き立て、魅力でもあると思ってる。
だから、たとえ優しい言葉を掛けてもらえなくても、私は彼が好き。
ずっと傍にいれば、いつかきっと私の想いに応えてくれる、ずっとそう信じていた。
でも.....
「西田さん、教えていただけない?」
「はい、何をでしょう?」
「ある女性のことを....」
廊下に出てSPの姿を確認する。
あいつがいない....
「支社長、西田秘書より窺っております、バーに向かわれるのですね?」
責任者の斎藤が近付いてきた。
「ああ、ところで女のSPはどうした?」
「女性SPは夜勤業務がありませんので、本日は帰宅しました、何か御用でしたか?」
「いや....」
「では。」
斎藤の先導でバーに向かうが、途中、見覚えのある後姿が視界に入った。
「田中先輩、今夜付き合ってもらえませんか?」
「おお、お前から誘ってくるとは珍しいな。」
「ちょっと、スッキリしたいなぁと思って。」
「スッキリか.....じゃあ手加減しねぇからな。」
「怖いなぁ...やっぱやめておこうかな...」
「何だとぉ?!俺をその気にさせといてやめるだとぉ?!」
「ぎゃあぁぁ、ちょっと先輩、苦しいってば...」
「よし、今夜はオールナイトだ。」
「それは謹んでお断りします。」
「人の好意を無下に断るな。」
「いえいえ、先輩の化け物並みの体力には付き合いきれませんから。」
「おい!化け物とは何だ?!」
「きゃははは、だから苦しいってば..」
スッキリしたい?
付き合う?
オールナイト?
「支社長、どうかなさいましたか?」
立ち止まったまま動かない司。
その拳はわなわなと震えていた。
「斎藤、頼みがある。」