~ Fantasia ~

花より男子の二次小説サイトです

2021年01月

「牧野、こっち。」
「あ、花沢類!」

ホテルのロビーに立つ美貌の王子様。
ただ立っているだけなのに目立つってもんじゃない、類の周りにはアイドル並みの人だかりが出来ていた。

うう...視線が痛い。

「大丈夫なの?」
「うん、今休憩になったから、花沢類はどうして此処に?もしかして道明寺に会いに来たの?」
「まさか、取引先との会食、牧野を見かけたから、本当にSPになったんだね、驚いたよ。」
「へへへ、無事訓練を終えました。」
「で、司のSPになったの?」
「希望したわけじゃないから....たまたまね。」
「そっか....牧野がSPになったら僕の護衛頼もうと思ってたのに残念だよ。」
「何言ってるの、花沢にも専属警護官がいるでしょう?」
「まあね、でも僕は牧野がいいから、ところでさぁ...」
「なに?」
「よかったじゃん、司、はっきり言ってたね。」
「何を?」
「だから、政略結婚なんて絶対にしない、結婚は愛する女性とします.....て。」

また少しだけ胸から血が流れた。

「だね、よかったよ.....あいつが幸せそうで。」
「牧野?」
「あ、そろそろ休憩終わるから、あたし戻るね。」
「うん、近いうちに就職祝いの御飯に行こう、連絡するから。」
「分かった、じゃあね。」

そう言って、駆け出した牧野。
その背中がやけに小さく見えて、一瞬引き留めそうになったけど....


「司が傍にいるなら大丈夫だよね、牧野。」




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「はぁはぁ、すみません、荒木先輩。」
「あら、そんなに慌てて戻って来なくても大丈夫よ、それで知り合いには会えたの?」
「はい、会えました。」
「高校の先輩?」
「一つ上の先輩です。」
「高校の先輩と今でも繋がってるって素敵だわ、そんな友達は大切にしなくちゃね。」
「はい。」

そう、道明寺と別れた後も花沢類や西門さん、美作さんは何かと気に掛けてくれている。
大切な友達だ。道明寺とも......今は無理でも、いつか友達に戻れたらいいな..
この胸の傷が完治したら....だけどね。




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「今日の予定は以上です。」
「ああ....帰国初日から遠慮がねぇな、お前は。」
司はソファーに身体を預け、大きく息を吐く。
「恐れ入ります。」
「チッ..嫌味も通じねぇのかよ。」
会見の後、立て続けに雑誌の取材を5件こなし、気が付けば陽はどっぷり暮れていた。
「取材中に美作様から電話がございました、今夜メープルのバーで帰国祝いをしたいとのことです。」
「ああ、かったりぃが、あいつらに会うのも久しぶりだからな...」

「あいつら...て、もしかしてF3の皆様?」
美咲がいそいそと近付き、俺と西田の前にコーヒーを置くと興味津々で聞いてくる。
「確か美作商事の美作あきら様と茶の湯の総本家・西門流の西門総二郎様、あと花沢物産の花沢類様だったかしら?」
「よく調べてるじゃねぇか....」
「そりゃあ、司の御親友と言われる方たちですもの。」
「親友ねぇ...」

悪友の間違いだろう?
牧野のことがあってから、あいつらの態度はえらく冷てぇ。
まあ、あいつらにとっても牧野は親友だ。
牧野が辛い思いをしている原因が俺にあるとすれば、あいつらが黙ってるはずねぇからな、責められるのは覚悟していた。

「まったく、こっちの事情も知らねぇで..」
「司?」
「何でもねぇよ。」
「じゃあ、私も仕度してくるわね。」
そう言って、席を立とうとした美咲。
「仕度って何だ?」
「え、だってバーに行くんでしょう?」
「お前は来なくていい、いや来るんじゃねぇ。」
「え、だって私は司の婚約者なんだし、きちんとお友達にも紹介して欲しいわ。」
「必要ねぇな。」
「どうして?だって私は..」
「おい!」
「え?」
「俺が必要ねぇって言ってんだから必要ねぇんだよ、同じことを何回も言わせんな、それに外であんまり俺の婚約者だって触れ回ると、あとで自分が恥をかくことになるぞ。」
「それって....どういう意味?」
美咲の顔が青ざめた。
「そのまんまだ、アメリカ暮らしが長くて日本語忘れたか?」
「私は司の婚約者よね?記者会見でだって言ってたじゃない、愛してるから結婚するんだって..」
「おまえ、日本語の変換変だぞ、やっぱアメリカに帰った方がいいんじゃねぇか?」
「司!!」
「時間だ、そろそろ行くわ。」
「待って!」
止める美咲の腕を振り払い立ち上がった司は、真っすぐドアに向かって歩き出す。
そしてドアノブに手を掛けたと同時に振り返り。
「ああ、それから西田。」
「はい。」
「俺が戻るまでに部屋を片付けておけよ。」

吐き捨てるように言って、そのまま部屋を出て行った。
”片付ける”の意味を理解した美咲。

なぜ?
どうして?

司は優しい人ではない、我儘で自分本位の人だ。
他人の気持ちなんて考えたこともないだろう。
それは十分理解しているし、それが彼のカリスマ性を引き立て、魅力でもあると思ってる。
だから、たとえ優しい言葉を掛けてもらえなくても、私は彼が好き。
ずっと傍にいれば、いつかきっと私の想いに応えてくれる、ずっとそう信じていた。
でも.....


「西田さん、教えていただけない?」
「はい、何をでしょう?」
「ある女性のことを....」




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廊下に出てSPの姿を確認する。
あいつがいない....

「支社長、西田秘書より窺っております、バーに向かわれるのですね?」
責任者の斎藤が近付いてきた。
「ああ、ところで女のSPはどうした?」
「女性SPは夜勤業務がありませんので、本日は帰宅しました、何か御用でしたか?」
「いや....」
「では。」
斎藤の先導でバーに向かうが、途中、見覚えのある後姿が視界に入った。





「田中先輩、今夜付き合ってもらえませんか?」
「おお、お前から誘ってくるとは珍しいな。」
「ちょっと、スッキリしたいなぁと思って。」
「スッキリか.....じゃあ手加減しねぇからな。」
「怖いなぁ...やっぱやめておこうかな...」
「何だとぉ?!俺をその気にさせといてやめるだとぉ?!」
「ぎゃあぁぁ、ちょっと先輩、苦しいってば...」
「よし、今夜はオールナイトだ。」
「それは謹んでお断りします。」
「人の好意を無下に断るな。」
「いえいえ、先輩の化け物並みの体力には付き合いきれませんから。」
「おい!化け物とは何だ?!」
「きゃははは、だから苦しいってば..」


スッキリしたい?
付き合う?
オールナイト?


「支社長、どうかなさいましたか?」

立ち止まったまま動かない司。
その拳はわなわなと震えていた。


「斎藤、頼みがある。」
































「はい出来たわ、どう、私の選んだネクタイは?」
「悪くはない..」
「でしょう?」
少し光沢のあるシルバーのネクタイを結ぶと、美咲は満足そうに笑った。

「何処に行くの?」
「ああ、ちょっとな。」

そう言うと、司はリビングからクローゼットのある寝室に向かう。
まるでブランドブティックのような広いクローゼット。
仕事用のスーツやワイシャツにネクタイ、時計や靴、その他生活に必要な服は全て揃えてある。
そのクローゼットの一角にある引き出しを開けると、司は今まで結んでいた赤いネクタイを丁寧に仕舞った。

「ふっ....お前は覚えてねぇだろうな。」


それは日本に来て初めて見せた笑顔だった。
いや三年振りだろうか.....
三年前までは確かに、この場所で司は笑っていた。


『おい。』
『なあに?』
『お前が選んでくれよ、ネクタイ。』
『ええぇぇ、あたしセンスないよ。』
『お前にセンスなんて期待してねぇって、ほら。』
『失礼ね....じゃあ、どんなの選んでもちゃんと着けてね。』
『おう。』
『えっと......あ、これ、この赤いのがいい。』
『これか?』
『うん、道明寺の色だね。』
『俺は赤かよ。』
『うん、赤、強烈な赤、忘れられない色。』
『なんだよ、それは...ん。』
『なに、あたしに結べって?』
『ああ、選んだんだから責任取って結んでくれ。』
『なによそれ、選ばせたくせに...しょうがないなぁ...ほら、屈んで。』
 チュッ....
『こら、どさくさに紛れてキスしない。』
『しょうがねぇだろう、好きなんだから。』
『ば..か.....んん......』


「司?」

ハッと振り返る。
一瞬あいつかと思ったが、違うと分かった途端、それまでの幸せな気持ちがドス黒い闇に覆われた。

「入ってくんな!!」
美咲の顔が一瞬で青ざめる。
「....ごめん、戻て来るのが遅かったから...」
「出てけ!!」
「司?」
「出てけって言ってるだろう!!」
「怒らないで、分かったから.....リビングで待ってるわ。」



司はスイートの寝室に入ることを極端に嫌がる。
それは三年前から変わらない。
どうして?
私達は婚約してるのよ、私に何を隠しているの?
今までは、ただ単に潔癖症だからだと思っていた。
だけど、今日ある人に会ってから嫌な考えが頭に浮かんだ。

まさか...
まさか....

「藤堂様?」
「え、あ..はい。」
「どうかなさいましたか?」
「西田さん、いえ.....何でもありません。」

過去に何があったとしても、司を信じてる。
何も怖がらない。
私は司を愛してる。
司も私を愛してくれてる。
そうでしょう?



「時間か?」
「はい、会見場へ。」
「分かった。」

司のいつもと変わらない様子にホッとする。

「司。」
「あ?」
「ううん、行きましょう。」
しがみ付くように彼の腕を掴んだ。


そうよ....私はこうしてあなたの腕を掴んで離さない。
絶対に...



「斎藤課長、支社長が会見場に移動します。」
「了解です。」

西田秘書が無線で指示を出す。
それに応えて部屋の扉が開いた。

彼女がいる...
黒いスーツにストレートの黒髪の警護官。
とびきり美人でも魅力的でもない、ごく普通の女性。
どう見ても司とは繋がらない。
きっと私の想い過ごしよ、きっとそう。


信じていいわよね?
ううん、信じてるわ.......司。



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記者会見が始まった。
大勢のマスコミが集まる大広間、あいつが姿を見せた途端、眩しいほどのフラッシュの嵐が巻き起こる。
それを気にする様子も見せず雛壇の中央に座った、憎たらしいほど堂々としたあいつ。

「それでは、これから道明寺ホールディングス日本支社代表、道明寺司氏の就任会見を始めます。」


あいつにとって記者会見は仕事の一部、会議に出る感覚で「緊張?するか、そんなの。」なんって言ってたっけ。


ニューヨーク本社での活躍、今まで成功させたプロジェクトの数々など一通りの紹介が終わると、あいつがマイクに向かった。

「本日付で道明寺ホールディングス日本支社代表に就任しました道明寺司です...」

私達護衛官はマスコミの動きに目を光らせる。
一応身元確認は行っているが、どこに不審者が紛れ込んでいるか分からない。

「会場の隅まで目を光らせろよ。」
「了解です。」

無線から聞こえる指示で入口の扉の方に視線を向ける。
すると、そこに見覚えのある顔を見つけ、思わず「あ」と口を開いてしまった。

「どうかしたのか、牧野?」
「いえ、すみません、何でもありません。」

慌てて顔を引き締める。
その様子がおかしいのか、視線の先の相手はくすくす笑っていた。

人の気も知らないで........


会見は質疑応答まで進み、記者達から矢継ぎ早に質問が投げかけられる。
その殆んどは道明寺のプライベートに関すること。
それも結婚に関することに限定している。

「藤堂商事の令嬢と婚約なさってから大分経ちますが、日本支社代表就任のこの機会に結婚を発表されるのではと噂されていますが、本当ですか?」

「帰国前に不動産をいくつか購入されていますが、それは結婚後の新居になさる予定ですか?」

「お二人揃って結婚会見をする予定はありますか?」

どの質問にも道明寺は答えない。
ただ黙って正面を見つめている。
記者から見えない位置に立っている彼女も何か言いたげな表情で立っていた。
どの質問にも答えようとしない道明寺。
会見場は次第にざわつき始める。
不味いと思ったのだろう、司会進行役が代わりに口を開いた。

「今回は就任会見ですので、プライベートに関する質問にはお答えできません、では、そろそろ時間になりましたので、これで会見の方は終了させていただきます。」


終了の合図と共に立ち上がった道明寺。
軽く会釈をし、歩き出そうとした時だった。

「政略結婚の噂もありますが、本当ですか?!」

一人の記者が声に、あいつが足を止める。
そしてゆっくり振り向いた。


「俺は政略結婚なんて絶対しない、結婚は愛する女性とします。」


一瞬、会見場が静まり返った。
そして数秒後、それまで以上のフラッシュの光が会場内を埋め尽くす。


結婚は愛する女性と.......



愛する.......
愛する.....

そっか.....あいつは好きなんだ、あの綺麗な人が.....
そっか.......あの人を好きになったから、だから私と別れたんだ。
そっか....なぁんだ、そうだったんだ。


「牧野!!」
「あ........え?」
「ボヤッとするな!!」
「す、すみません!!」


もしかしたら.....と思ってた。
もしかしたら私と別れなくちゃいけない、どうしようもない事情があったんじゃないかと思ってた。
会社の為とか......てね。
でも違ったんだ。

私はあいつに必要とされなくなったから、フラれたんだ。
もう、あいつの心の中に私はいない。
そう思った時...



ズキッ....




胸の中の古い傷から、少しだけ血が滲んだ気がした。












「司。」

部屋に入った途端、司は顔を顰めた。

「美咲、いつ来た?」
「一時間ほど前よ。」

声は出さずに横目で西田を睨む。

「来るなら連絡くらいしろよ。」
「うふふ、驚かせたくて。」
「ったく.....これから会見だ、お前に構ってる暇はねぇぞ。」
「分かってるわ、だから来たんじゃない、ほら、やっぱり....」
そう言って、俺の襟もとに手を伸ばす美咲。
「なんだよ?」
「ネクタイ、替えましょう?」
「このままでいい、俺はこのネクタイが気にいってる。」
「そうね、司には似合ってるはこの色、でも....少し安っぽいかな。」
思わず眉間に力が入る。
「プライベートならいいけど、公式な会見でしょう?だったらもう少し明るい色のネクタイにした方がいいわ。私が下のブティックで選んでくるから、ちょっと待ってて。」
「ネクタイなら此処にも腐るほどあるぞ。」
「分かってる、でも今日は私がプレゼントしたいの、支社長就任のお祝いに。」
「めんどくせぇ.....」

チュッ.....


「おい!」
不意打ちにされたキス。
「うふふ、照れちゃって、司ったら可愛い。」
照れるか!
むしろ照れてるのは....
振り向いて西田を見れば、眉一つ動かさず立っている。
たまに、本当にこいつにはに感情がないんじゃねぇかと思う。

「じゃあ、行ってくるわね。」
「支社長、私は先に会見会場の方へ。」
「ああ.....」





二人の姿が消えた途端、司はドサッとソファーに倒れ込んだ。
そして両手で顔を覆う。

「まじかよ......」

あいつが膝の上に乗った時、思わず抱きしめそうになったじゃねぇか!
フニャッとした尻の感触、目の前には可愛らしい膨らみ、俺を誘うような甘い香り。
一瞬、喰らい付きそうになっちまった。
リムジンの中だってことも、西田が居るってことも忘れて...

「まじ、ヤバかった....しっかりしろ道明寺司、お前の目標はもっと先にあるだろう、こんなことで狼狽えてどうする!」



ソファーから立ち上がった司は壁に設置された巨大な鏡に向かう。
そして鏡に映る自分の姿を見て不敵な笑みを浮かべた。

「タイムリミットは二か月......」





背景237






「ここで待っていて下さる?」
「はい。」
そう言って、ブティックの中に入って行った女性。

本当に綺麗....
はじめて雑誌で見た時はモデルさんかと思った。
細くて艶やかな栗色の髪、はっきりした目鼻立ち、スラリと伸びた手足。
身長はおそらく170㎝はあるだろう、道明寺と並んでも見劣りしない。
いや、絵になるほど似合ってる。
大会社の社長令嬢で、アメリカの大学を卒業したって書いてあった。
美人で教養があって、お金持ち。
誰かに似てる気がするけど.....

「お待たせ、行きましょうか。」
「え、あ、はい。」

女性と一緒に並んでエレベーターホールに向かう。


「牧野さんだったかしら?」
「あ、はい、牧野と申します。」
「女性のSPさんは初めてよ、これからお世話になります。」
「いえ、私の方こそよろしくお願いします。」
ペコリと頭を下げた。
「緊張しないで、同じ年くらいよね?」
「23歳になります。」
「じゃあ、私の一つ下ね、可愛い妹が出来たみたいで嬉しいわ。」

可愛い妹....

「あ!」
「どうかした?」
「あ、いえ、すみません。」

そっか誰かに似てると思ったけど...あいつのお姉さんに似てるんだ。
容姿も雰囲気も、この人は椿さんに似てる。

そうか....
そうなんだ...
結局、あいつは.....


シスコンかよ!



「牧野さん?」
「あ、すみません。」

私は慌てて女性と一緒にエレベーターに乗り込み、何の躊躇もなく最上階のボタンを押した。

「!!牧野さん、あなた...」
「はい?」
「......いえ、何でもないわ。」


何だろう.....
凄く驚いた顔で私を見てるけど....顔になんかついてる?


「どうもありがとう。」


扉が閉まった途端、大きな溜息をついた。

「御苦労さん。」
「チーフ、緊張Maxです。」
「ばか、まだ始まったばかりじゃないか、これからが本番だぞ、気合入れろよ。」
「はい.....」

そうだ、まだ始まったばかり。
大変なのはこれからだ。

おかしいよね。
離れ離れの時は会いたいと思ってもなかなか会えなかったのに、別れた途端、四六時中傍に居ることになるって、どんな因縁なんだろう。


「会見の時間です、準備を。」
「はい。」

斎藤課長の号令で一気に緊張感漂うフロアー。

「牧野。」
「はい。」


私を余計な考えを振り払い、扉の前に立った。













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